龍馬伝 | 福山雅治だけでなく、脇役の演技も素晴らしい

龍馬伝は2010年にNHK大河ドラマとして1年間にわたり放送されたドラマです。坂本龍馬を福山雅治が演じました。
龍馬に関しては、このドラマが始まる直前に、民放で幕末にタイムスリップした医者を描いたドラマ「JIN」が放送され、その中で内野聖陽が演じた龍馬の評判が良かったため、それに続く福山の演技に注目が集まりましたが、内野とはまた一味違う龍馬を演じきり、非常に内容の濃いドラマに仕上がっています。
 
では、私の心に残る名場面を回想します。
 

武市半平太と妻・富との別れの場面

武市半平太(大森南朋)は土佐藩の侍で、龍馬とは幼馴染みの仲でした。少年の頃より、文武に優れ、親分肌であったため、剣術道場の門下生からも厚い信頼を得ていました。時は過ぎ、幕末、鎖国を続ける日本に対して、開国を迫る海外列強の圧力がしだいに強くなっていました。そんな折、半平太は、この国の行く末を案じ、尊王攘夷(天皇を中心とした国家を作り、外国を追い払おうという思想)を掲げ、土佐藩の下級武士によって組織される「土佐勤王党(とさきんのうとう)」を立ち上げます。この頃、土佐藩には厳しい身分階級制度が存在し、同じ武士であっても、龍馬や半平太が属する下級武士(別名:下士(かし))は上級武士(別名:上士(じょうし))から絶えることのない差別を受けていました。下士の分際に過ぎない半平太が国家的な行動を起こしたことは、龍馬にも少なからず影響を与えました。

一時は飛ぶ鳥を落とす勢いで藩を主導する存在にまでになった半平太でしたが、尊皇攘夷が下火になり、しだいに追い込まれます。また、藩主・山内容堂(近藤正臣)が信頼を置く吉田東洋(田中泯)を、主張の違いから、勤王党が暗殺したことが明るみに出て、容堂の怒りを買います。勤王党の仲間が次々と捕らえられる中、ついに半平太にも追手が迫ります。

場面は半平太の家。妻・富(奥貫薫)と二人で朝ご飯を食べています。半平太は富に、これまで一人きりにして寂しい思いをさせた、これからは楽しく過ごそうと言います。富は「はい」と言って微笑みます。そこには静かで幸せな時間が流れていました。それを切り裂くかのように、ドンドンドンと戸を叩く音が鳴り響きます。「武市半平太はおるかい」。しかし、半平太は富との話をやめません。富も半平太を見つめ、話を続けます。家の外はいっそう騒がしくなり、その先に逃れようのない別れを予感させます。一方、家の中では、数十秒、その時間を永遠に心に刻もうとするかのように、穏やかに二人の会話が交わされています。この対比が素晴らしく、互いに夫婦であって良かったと言い合う、そんな切ない別れの場面を大森南朋と奥貫薫が好演しています。やがて、役人が入ってきて、半平太を捕らえます。半平太が玄関を出るとき、富はいつもと変わらず「いってらっしゃいませ」と送り出します。夫が罪に問われる理由はない、そう主張するかのように。

山内容堂と後藤象二郎が酒を酌み交わす場面

山内容堂は土佐藩の15代藩主です。土佐藩には厳しい身分制度があり、藩主は絶対的な存在でした。下士の龍馬はもちろんのこと、上士の後藤象二郎(青木崇高)であっても、容堂の前では平伏したまま、まともに顔すら見ることのできない存在でした。しかし、徳川幕府の威信が無くなろうとする中、このままでは海外列強に日本は植民地にされてしまうという危機感、憂国の想いが、全国的に身分の上下に関わらず武士に広まり、藩の枠を超えた大きなうねりになろうとしていました。土佐藩でも、龍馬や半平太という、以前であれば、政治に関わることのなかった身分の人達が意見を言い、行動を起こすようになりました。

容堂は非常に頭の切れる人物で、徳川幕府の中でも、一目置かれる存在でした。現在の徳川の世ではいずれ日本が立ち行かなくなると考えていましたが、それ以上に、自分の発言・行動が幕府の怒りを買い、先祖代々から受け継いだ土佐藩を絶やしてしまう結果になることを恐れていました。それゆえに、龍馬や半平太の突出した振る舞いを疎ましく思っていました。

そんなとき、後藤象二郎の計らいで、龍馬が容堂と話す機会に恵まれます。龍馬は、容堂に対して、徳川の世を終わらせる政権返上を将軍・慶喜に勧める、建白書(意見書)を書いてくれないかと願い出ます。容堂は言います、「それは直訴かえ?直訴いうがは、受け入れらんかったときには、腹を斬らんといかんがじゃ」と。龍馬はその覚悟であると言い、250年以上続いてきた徳川の古い仕組みを終わらせ、新しい国を作るべきであると言います。容堂は表情を変えませんでしたが、自分の秘めたる思いをそのまま、龍馬が話したことに驚きます。そして、さらに問いかけます、「武士も大名ものうなってしもうた世の中に何が残る、何が残るがじゃ?」。龍馬は、一筋涙を流しながら、「異国と堂々と渡り合う日本人が残るがです」と言います。その言葉は、容堂に一つの解答を与えるものでした。龍馬そして象二郎の前に差し出された切腹の覚悟を示す刀を仕舞うように告げ、その場を立ち去ります。

場面は変わって、早朝。静けさが漂う縁側で、庭を見ながら、容堂は酒を飲んでいます。傍らには象二郎が控えています。思いにふけった表情で、「わしが大政奉還の建白書を出して、慶喜様の怒りをこうてしもうたら、この山内家はお取り潰しになるかもしれん」。象二郎は答えます、「大殿様がご覚悟をもって建白されるなら、それに異を唱える家臣は土佐には一人もおりません」。容堂は象二郎を見つめ、盃を与えます。そして一言、「武士の世を終わらせるかえ?」

容堂を演じる近藤正臣が素晴らしい。若いころは二枚目を演じることが多かったですが、歳を重ね、老人役が似合うようになりました。藩を守るための非情さ、時折見せる家臣への優しさ、日本の行く末を憂う想い、そんな善とも悪とも受け取れる役柄を細やかな表情で演じています。この龍馬伝を機に、また出演される映画やドラマが多くなったような気がしますが、今後も、渋い役どころを数多く演じてもらいたいです。

是非、一見!

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